雑学コラム

ヘッドホン・イヤホン豆知識 vol.13

ドライバーユニットの「振動板の材質」で音はどう変わるの?

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ドライバーユニットの「振動板の材質」で音はどう変わるの?

2021 November

前回に続いて、ドライバーユニットを構成する重要パーツのひとつである「振動板」に注目。今回は振動板の「材質」について考えてみましょう。振動板の材質もイヤホンの音質を左右する要素のひとつ。振動板には様々な特性が求められるので、それらをできるだけ多く満たす材質は音質面での大きな優位につながります。

 

中でも特に重要な特性は「硬さ」「軽さ」「内部損失」です。

 

「振動板が動きの勢いに負けて変形してしまうと振動板が生み出す音も不正確になってしまうので、変形しないための硬さが必要」

「振動板が重いと慣性によって動き出しも動きの収まりも鈍くなってしまうので、スッと動き始めてピタッと止まれるように軽さも必要」

「振動板が特定の周波数にだけ強く響いてしまうと音にも癖が出てしまうので、振動を適度に吸収する内部損失も必要」

 

といった理由から大切になります。メーカーが採用をアピールする材質は、それらのすべてをバランスよく満たしていたり、どれかを特に強く満たしていたりするわけです。

 

例えば最もベーシックな振動板材質はPETなどの合成樹脂。つまりプラスチックですが、これは硬さも軽さも内部損失も十分に確保できるバランス型の材質です。しかも加工しやすく低コスト!

 

ですが普通に広く用いられている材質なので、その採用が特にアピールされることはありません。

 

対して「グラフェンコーティング振動板」「ベリリウムコーティング振動板」など、「〇〇コーティング」はよくアピールされていますよね。「硬さに優れた材質でコーティングすることで、単体材質の振動板よりも硬さ仕上げる」という狙いで採用されることが多いようです。

 

ちなみにコーティングの土台となる基材としては、前述のPET樹脂が一般的。そのバランスの優秀さがあってこそ、コーティングでの強化も成り立っています。

 

コーティングではなくベリリウムなどの硬い金属そのものを振動板全体、あるいはドーム部分に採用する例もあります。硬い金属は薄く仕上げても十分な頑強さを確保でき、その薄さによって軽さも得ることができるのが特長。ただし加工の難易度は高く、採用例はハイエンド価格帯に偏りがちです。

 

繊維質を用いた材質もあります。植物由来の繊維から生み出される「バイオセルロース」は、十分な硬さ、優れた軽さや内部損失を兼ね備えています。パルプ、つまり紙も繊維から生み出される素材ですね。

 

そして振動板として特に個性的な材質といえば、ビクターの「ウッドドーム振動板」でしょう。樺の木材の薄膜をドーム部に用いています。ドーム部の他はカーボンコーティングのPET素材などです。

 

木材は内部損失に優れると同時に、木目、すなわち繊維の流れに沿った方向には音の振動を速く伝播し、そうでない方向には遅く伝播するといった不均質さのおかげで、特定の帯域での共振が発生しにくいという特長も備えます。木は癖の強い材質と思われがちかもしれませんが、振動板としては響きの癖が少ないことこそが強みなのです。

 

さてでは、それらの材質それぞれの音の傾向はどういったものでしょう?

 

たとえば硬さが特長の材質には、音色もカチッと硬くなる印象があるかもしれません。繊維系のしなやかな材質なら、ナチュラルな響きという印象になるでしょうか。

実際、特に新しい材質の採用が始まった当初は、材質自体の印象が音にもそのまま表れているようなイヤホンも多いです。

 

ですがどんな材質も、メーカーがその材質を使い慣れてくると、材質の持ち味を生かしつつも、それにとどまらない幅広い音作りが展開されてきます。振動板には材質の他にも形状や厚みなど様々な要素がありますから、振動板としての最終的な特性はトータルでの調整次第。たとえば前述のウッドドーム振動板の構造も、ウッドの持ち味を生かしつつ、振動板全体としての特性をさらに整える狙いからでしょう。

 

振動板に限らず、材質の特性は、人間でいうならフィジカル面での才能のようなもの。

 

たとえば同じように瞬発力に優れたサッカー選手が二人いたとしても、一人はドリブル突破が得意、もう一人は守備の隙間に飛び込むのが得意と、選手としての個性は違ったりしますよね。身体的な才能の活かし方は人それぞれです。

 

イヤホンの振動板でも様々な材質が様々に生かされていて、それぞれに魅力的な音が生み出されているのです。


Profile


高橋敦
Takahashi Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。
趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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