ロックスターの横顔 vol.14

ミック・ジャガー (ザ・ローリング・ストーンズ)

ミックのようなリアリストがいたからこその60年 MUSIC LIFE CLUB Presents

ロックスターの横顔 vol.14 ミック・ジャガー (ザ・ローリング・ストーンズ)

ミックのようなリアリストがいたからこその60年

2022.February

2003年3月、横浜アリーナでのステージ


昨年の8月24日、ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツが亡くなったことが発表された。なんだろう、彼の特別なファンでもなかったのに胸にポカンと穴が開いたような気分になった。ずっとストーンズが存在していた世界に生きて来た人なら皆、こんな奇妙な気持ちになったに違いない。チャーリーのドラミングには独特の“間”があって、それがストーンズの個性につながっていたと思う。

 

ところで毎年、年末になると発表される音楽業界の色々なランクがある。このランキングのなかで私が、ある意味で注目しているのが興業収入ランキングだ。‘90年代以降、ヒップホップに押されまくっているロックだけれど、この興業収入ランクだけはロックが牙城を守っているように見える。それもベテラン勢ががんばっている。例えば昨年はイーグルス、デイヴ・マシューズ・バンド、ガンズ・アンド・ローゼズという具合。新しい現在のロック・バンド、アーティストは一体、どこに行ったのだ?と思うが、彼らのファンであるはずの若い音楽ファンはロックではなく、ダンス・ポップやラップに魅力を感じ、加えて高いコンサート・チケット代を払う余裕がない。’90年代以前の音楽ファンが、ある程度、生活に余裕のある中高年世代になり、彼ら彼女らがコンサート・チケットを買う主な層になったということだろう。

 

ところで常に、この興業収入ランキングの上位にランクされるのがローリング・ストーンズなのだ。彼らが大規模なツアーをやった年は必ずといって良いほど1位になっている。2021年もコロナ禍とは言え、堂々のナンバー・ワンで総収入は127億円!


The Rolling Stones - 2021 US Tour (Rescheduled Dates + New Shows)
https://youtu.be/8EFYwSs1C68
昨年行なわれたのは北米ツアーの残り14公演(+1)のみにもかかわらず、興行収入は堂々のナンバーワン


昨年9月26日にミズーリ州、セントルイスで初日を迎えたストーンズの全米ツアーはチャーリー・ワッツへの追悼から始まったという。ストーンズが凄いと思うのは、超が付く位の大ベテランでありながら、実に精力的に活動し続けているところだ。メンバーは皆、80歳を迎えようとしているはずだが、ツアーをあきらめないし2016年には11年ぶりのスタジオ・アルバム『ブルー&ロンサム』を発表して、バンドの原点であるブルースに回帰してみせ、グラミー賞を獲得。いやはや、その貪欲なエネルギーには脱帽だ。まさに奇跡のジイサマ軍団と言える。

 

そんなストーンズの中心人物がミック・ジャガーとキース・リチャーズだが、この二人、仲が良いんだか悪いんだか、実に対照的な人物だ。私がミックに会ったのは‘70~’80年代に2回、そして’90年代に2回の計4回、キースには最初の来日時と’94年のアルバム『ブードゥー・ラウンジ』発売時の計2回会う機会があった。


2003年3月、横浜アリーナでのステージより


この二人、すごく対照的だと前述したが、まずバンドに対するスタンスが違う。

「山の向こうには何かがあると、いつも思う。だから新しいことにチャレンジするんだ。俺にとって究極のストーンズは、まだ見つけ出していないから」

こう言ってバンドの音楽を創り出そうとしているのがキース。ロマンティストだなァと思う。

「世の中にはストーンズなしの人生なんて考えられない奴らがゴマンといる。そういう連中にとってストーンズってのは太陽や月みたいに、そこにあって当然のものなんだ。もう一種の公的な機関みたいなものさ」

長年のファンがキースの、この言葉を知れば嬉しいに違いない。一方、ミックは、もっとドライだ。

 

「皆が思うほど僕はビジネスには興味がない。ビジネスで面白いと思うのは、それが実にややこしいところだ。でも、クリエイティヴであろうとするならばビジネスに目を開いていなければ、自分たちが本当にやりたいと思うことも出来ない。現代のミュージシャンはビジネスも知っておくべきだ。無知は不幸を招くから」

ごもっともな意見だ。話していてミックって、とことんスキがないなと思わせる。ビジネスに興味がないなんて言っているが、明日からすぐにでもカバンを持って銀行に勤務出来そうな雰囲気。一方、キースは、やっぱりロック・ミュージシャンしかないよね、と思わせる。それぞれが互いのないところを補い合っているという意味で、最強のコンビ、音楽的なバディ(相棒)なんだろうなと思わせる。


東郷編集長によるミック・ジャガー直撃取材 in NYは『ミュージック・ライフ』1983年7月号に掲載。


ミックもキースもストーンズを愛しているのは間違いない。でも一般的には、特に男性のコテコテのストーンズ・ファンはキースこそがストーンズの良心~ロック・スピリットを象徴していると思いたいらしいが、私の意見は違う。ミックみたいなリアリストがいたからこそストーンズは60年間もバンドとして続けてこられたのだ。

 

さて、この「ロック・スターの横顔」は今回をもって最終回となりました。読んでくださった皆さん、ありがとうございました!



(東郷かおる子)


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東郷 かおる子 Kaoruko TŌGŌ 音楽専門誌「ミュージック・ライフ」元編集長。
神奈川県横浜市出身。星加ルミ子氏に憧れ、高校卒業後、(株)新興楽譜出版社(現・シンコーミュージック・エンタテイメント)に入社。

1979年に編集長に就任。1990年に退社。現在はフリーランスの音楽ライターとして活動。近著に「クイーンと過ごした輝ける日々」(シンコー・ミュージック刊)。



東郷かおる子さんが編集長だった『ミュージック・ライフ』は『MUSIC LIFE CLUB』と姿を変え、クイーンを中心とした往年の洋楽アーティスト/グループのニュースや情報をお伝えするサイトとして、シンコー・ミュージックが完全に無料のサービスとして運営中。


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